2010年 06月 16日
「一泊二日の人」 |
母子センターに転院した当初、
4人部屋は3人で使っていました。
私が入院してすぐに、
私の隣のベッドに「一泊二日の人」が入院してきました。
その日の朝、ナースが私たちに声をかけます。
「ここに、今日、『一泊二日の人』が来るので、よろしくお願いしますね。」
何のことかわからずキョトンとしている私に、
自称「この部屋の主」Yさんが教えてくれます。
「『一泊二日の人』って言うのは、流産して、掻爬(そうは)する人やねん。
一日目に、子宮口を開けるタンポンを入れて、次の日の朝に手術して、夕方には帰りはる。
今までも何人も来たけど、向こうから話しかけてこない限り、こっちからは絶対に話しかけたらあかんよ。
たいてい、カーテンは閉め切ってはるし、顔をみることはないけど。
家族に当たり散らす人もいるし、
一晩中泣く人もいるし、
いろいろやから・・・・。
とにかく、私らは何も言わず、そっとして、その人が退院していくのを待つしかないねん。
明日の夕方まで、わたしらも、なるべくカーテン閉めて、話もでけへんと思うから、
そのこと、『よろしく』ってこと。」
私は以前、生徒の中絶に関わり、手術にも立ち会った経験があるので、→ 【私が体験した命のお話】
それがどんなものかは想像ができました。
私が母子センターで初めて出会った「一泊二日の人」は、
やはりYさんが言うとおり、
一度も顔を見ることもなく、
閉め切ったカーテンの中で、家族と泣きながら話す声と、
痛みや精神定期な圧迫からか、うなされる声だけが聞こえてきました。
私にとっても、重く、長い二日間でした。
その後も「一泊二日の人」は何人か、やってきました。
彼女たちとは言葉を交わすこともなく、
自己紹介をし合うこともなく、
名前も知らずに入院し、次の日には退院していくので、
このような、味気ない呼び方をするのです。
「一泊二日の人」
名無しというのが、流産を「なかったこと」にしようとする意思が働いているようで、
とうてい、使い心地の良い言葉ではありませんでしたが、
彼女たちを呼ぶための他のふさわしい言葉を見つけることは、
当時の私には思いもつかないことでした。
by aserenityprayer
| 2010-06-16 07:48
| 【命】次男の誕生にまつわるお話